(概要)
本研究では、事故などで上肢の一部を失われた身体障がい者が物体とのインタラクションなど日常生活における殆どの作業を行うことができ、外観上にも本物の手と同様な多自由度電動義手の開発を目的とする。近年、申請者らはロボットハンドを製作し、筋肉の数式モデルを用いて粘弾性を制御することを提案している。このノウハウを応用し、①人腕の骨格モデルに基づいた電動義手を製作し、②機械学習をほとんど必要としない筋肉の数式モデルを用いて各アクチュエータの粘弾性を制御することで革新的な電動義手の基盤技術の構築を目指す。本研究によって身体障がい者向きの筋電電動義肢やリハビリなど臨床へ応用、そして、海底、宇宙環境で人間のように巧みに操作するロボットハンドへの応用も期待される。
(研究背景)
義肢の歴史は古く、紀元前950〜710年に製作された足の義指が世界最古の義肢である。中世時代でも鉄腕ゲッツの異名を持つゲッツ・ベルリヒンゲンの鋼鉄の義手が現存している。近代から現在までは二回の世界大戦と様々な戦争により手足を失う傷痍軍人が急増し、本物の肉体に近い外観再現を重視するエピテーゼ義肢の製作が発達されてきた。しかし、数千年の間、外装の材料を銅鉄からゴムやシリコンを用いることだけで、四肢切断者に重要な機能的な面では殆ど発展がなかった。

一方、50年前から市販された電動義手も表面筋電位の閾値を用いたオン・オフ制御が多く、5本指を制御できる多自由度義手やロボットの研究は常用化されていない。その理由は機能的な面を重視する電動義手は人間の骨格系と異なるリンク構造を持っているのでシリコン皮膚を被せるだけでは皮膚の歪みが生じてしまい、患者が装着することを好まないからである。最近、3Dプリンターの普及により、子供用の電動義手が安く製作することが可能になった。しかし、成人が使うにはトルクが足りないことや外観上の問題が解決できない。そこで、我々は人間の骨格系に基づいて作られた骨ロボットなら拳を握っても骨の形状により皮膚の歪みがなくなり自然な動作が可能になると考えた。

予備実験のため日本人の標準骨格を用いて3倍大きいサイズを持つ指ロボットの製作を行った。その結果、トルクの伝達機構を指骨の関節に導入すれば日常生活に十分な力を発揮できる電動義手の製作が可能である事が分かった。現在は研究協力者と共にトルク伝達機構の設計や柔らかい表面筋電センサの製作など基礎研究を行っている。